第5章 これからの学び
1 異学年交流授業・学びの交流・イエナプラン (授業備品NO228)
子供たちは生活の中に「教え教えられ」がある。年齢を超えて学び遊ぶ。部活動はその一例だ。だが、教師文化の中に異年齢子供の学び合いの考えはない。不思議なことだ。
私たちは、「同一学年同一指導の教育課程」を貫いてきた。だが、複式の授業を見たとき、それでよいか疑問をもった。上学年と下学年が同じ部屋にいて、それぞれが個別に学習をする。問題は、「わたり」として、教師が歩き、そこから授業が進む。先生が来ないと何も始まらない。これでは、主体的に学ぶ力はつかない。
幸い実践校の子供や教師は「学習スタンダード」を身につているので何ら単式の学級と変わらない。
考えてみよう。学校は、異学年の子供たちが同居している。この財産を使わない手はない。先輩から教えてもらえる、同じテーマで異学年同士の学び合える良さが身近にある。オランダの異学年交流の学び(異学年をグループにした個別最適な授業)の例があるが、ダイナミックに授業を変えるため新たな学び方を開発しよう。
(1) 学習課題はちがうが「教えに行く佐喜浜スタイル」
~佐喜浜レインボーラーニング(SRM)~
完全複式の学校である。その佐喜浜小学校へ同じ教室内の上学年の子が下学年に教えに行く授業を依頼した。昨年学んだ6年生が、「見通し」の段階を5年生に教えに行く姿があった。ごく自然にそれも得意そうに教える6年生は頼もしかった。教師ではなく先輩から学ぶ下学年の子供たちも喜んでいた。
子供たちは、狭いコミュニティに陥りやすい。だが、この逆境を良いほうに変えられると確信をした。これまでの異学年で算数や国語の教科を学ぶことはなかったが、今回の「佐喜浜スタイル」数は、子供同士の教え教えられる関係であったため教科の専門性も十分に身につけたと思う。
日本の新たな学びの方を開発されたと思う。人同士の絆を感じた佐喜浜スタイルは、学年により学習課題は異なるので個々に進めていく学習ではない。子供たちが「佐喜浜小はいいな」と感じて欲しいという教職員の願いがこの実践にはあった。上学年が下学年にすぐに教えに行く。どの学校でもすぐにできることだ。
(2) 学習課題は違うが学び合いの中で交流(イエナプランでの型学びの交流)
最近、個別最適な学びといわれる。異なる3学年の子供が生活班を組み、それぞれ個々の教育課程を進めていく方法だ。この制度は学校の教育課程が個々の子供たちに任されているので、それぞれが自学学習すればよい。だが、身近な異学年同士で交流をしているのが特徴でもある。
高知県の複式学級で見たのは、学年が違うので学習課題は異なる学習だ。最初から交流する場面が2か所、設定してあった。「班やゼミナール」「ワールドカフェ」の学び合いの学習段階の中だ。異学年で自然に聞き合えることができているので、異学年が一緒にいないのではないかとさえ思った。たとえ学習の流れは学年が違っても同じ空間にいたら一緒に学ぶことができる。通常の学級でもできると思うし、実践していただきたい。
(3) 共通学習課題による異学年年交流版長沢中型イエナプラン
個別最適な学びとは違うが、長沢中版のイエナプランは、学習課題が異学年でも同じであったことだ。
中2中3生が体育館で数学の学習を行った。中3は復習的に、中2は発展的に学習課題を設定すると、共通した学習課題ができる。当日は、中3が中2に真剣に数学のコーチをしていた。自分たちも行わなければならないが「教える」ことが先行したことは良かった。異学年でチームを組む班もあり、まるで「部活動」を見ているような学習風景であった。学校力、授業力、生徒の自学力が著しく向上した学校だ。一度は訪ねたい。
◎「主体的」とは、だれのことをいうのだろう。これまでの「自ら学ぶ」が重要と言われてきたので一人のことなのだろう。今次の学習指導要領では、「アクティブ・ラーニング」が出てきた。これは、全員活躍型・みんな活躍型が関係をしていると思う。だが、学びは、同学年の中だけで終わらないはずだ。学校は、異学年の子供たちが登校して来る。複式学級には2学年の子供たちが入室している。個別最適な学習が前面に出てくるので、異学年交流授業を実践する日はそう遠くない時期が来ると思う。校内の異学年の学びで主教科を学ぶことは必須だと思う。私たち教師は、忘れてきた「忘れ物」を取りに行こう。新たな学び方を開発しよう。
2 やまびこ言葉(授業を盛り上げる) (授業備品NO141)
授業の構成要素には、4層あることはお知らせした。その2層目の「学級力の向上」、すなわち子供たち同士の人間関係が良いことが重要だ。なかでもお互いに「笑顔」を大切にし合う関係性をつくることが大切だと思う。
三原中学校の体育は、生徒が「楽しそう」にやっている。みんな心からの仲間だからだ。そこには、授業の内容を学ぶ以外にいくつか「仕掛け」がある。授業が盛り上がるので、学習意欲もかなり高い。なお、体育の時だけでなく全教科で行える。子供が授業づくりを主体的に行うための「盛り上げる必須なアイテム」である。
(1) 本気じゃんけん
本時の学習課題を確認した後行う。活気あふれる授業になるためのジャンケン大会である。出来るだけ学級の多くの仲間とジャンケンを行いこれから始まる授業の場を盛り上げる。
①じゃんけんを次々と相手を変えて行う。
②勝った方は、「イエーイ」とオーバーなしぐさをしながら叫ぶ。
③負けた方も頭を抱えるようなオーバーなしぐさをする。
④相子の時は、両手タッチをして、またじゃんけんをする。
⑤出来るだけ多くの仲間と行う。
(2) ワクワク目標朝礼
本気ジャンケンの後、行う。今日の自分の目標を班の仲間に伝える。それを聞いた仲間(班員)は、称賛の言葉を言う。自分なりの言葉で目標を話す。班員の目標言葉を聞いた仲間は一緒に協働的に学ぼうとする。
①リーダー:「目標を言いたい人」
班員が手を挙げ、リーダーが指名をする。
②班員1:「言います。バトンをしっかり渡します。」
③全:「いいねー」と言い、両手を発表者に突き出す。
④リ:「目標を言いたい人」
⑤班員2:「私は、バトンパスを必ず成功させます。」
⑥全:「いいねー」と言い、両手を発表者に突き出す。
*班員全員が言うまで繰り返し、最後に全員で「イェーイ」と言う。
(3) チクサクコール
掛け声を合わせて気持ちを高めるコールだ。体育の試合前の準備としてやってみるとよい。運動会の時の気合い入れにも良い。何かしら活動を始める時に気持ちを合わせるためにも最適だ。
*右手右足を出し、全員で手を重ねる。個人が親指を立ててもよい。リーダーが「チクサクコール」と言う。全員で、「イェーイ」と言う。続いてリーダーが「チクサク チクサク」と言い、全員で「ホイホイホイ」と片足を踏みながら言う。これを2回繰り返す。
次にリーダーが「イビー」全員が「チャオ」を2回繰り返す。最後はリーダーが「イビー」と言い全員で一斉に「チャオチャオ オー!」でグー(親指立ても可)を上に突き上げる。
リ:チクサクコ〜ル 全:イェーイ
リ:チクサク チクサク 全:ホイホイホイ リ:チクサク チクサク 全:ホイホイホイリ:イビー 全:チャオ リ:イビー 全:チャオ リ:イビー 全:チャオチャオ オー
(4) スマイルパス
前半のアクティブな活動Ⅰの後、「スマイルパス」を送る。班員全員
で丸くなる。4人で3回くらい送る。
①班員1がボールを持つしぐさで「スマイルパス」と言いながら班員
の誰かに送る。
②パスを受けた班員が、他の班員に「スマイルパス」と言い送る。
③①~②を続ける
5 ダルマさんが転んだ
② 授業の中で進行役が「ダルマさんが転んだ」
②「ダルマさんが背伸びをした」「ダルマさんが笑った」「ダルマさんが握手をした」「ダルマさんがペア」
3 参加型の授業づくり集会 (授業備品NO224)
子供授業参観とは、子ども達自身が授業を観て、授業後に協議をして「自分たちの授業づくり」に活かすことである。高知県では、「子供協議会」「授業づくり集会」という形式で行っている。子供たちが自らの授業を振り返るのは、直接、次の授業に活かせるので重要なことだ。今回は、授業に参加した子供の協議で終わるのではなく、参観した子供たちが授業に直接「参画」するような会としていただきたいことをお伝えしたい。
(1) 教師の授業研究協議会
かつての授業は、教師が進めることが当たり前のような考え方であったので教師だけの研究会や研究協議会もそれが常識だったと思う。子供が主体的や個別最適な授業が求められる今日は、その常識はもう通じない。
「授業観」が偏らないようにと、多くの意見をワークショップ型で協議会を変えてきた。「課題」「成果」「改善策」と付箋を出し合い、話し合ったという事実を残してきた。だが、ワークショップを推進してきた私自身にも迷いがあった。ワークショップは、それまでの「授業を知っている人が中心に話す」ことを改善することには、大きな成果があった。全教師が参加でき劇的にそれまでの方法と変わったからだ。ワークショップは、価値あるものだと思ってきたが本当にそうだろうか。「大人」「教師」だけの協議だけで授業の反省をして本当に効果があるだろうか。協議はしたが、その後の授業に十分に効果があったとは思えない経験をしているからだ。肝心の「子供自身が授業の反省」をして、次へ活かすことがない限り、授業は変わらない。
(2) 子供授業研究会
子供たちが授業後に、「よかったこと」「改善すること」「次に頑張ること」等を付箋に書き、学級全体で協議をする会だ。これは、教師が「行っただけ」の研究協議会ではなく、子供自身が「振り返り」をするので次の授業に活かしやすい。高知県では、「子供授業協議会」の形式で、早10年の歴史を積み重ねてきた。十分に、その目的を発揮したと思う。ぜひ行っていない学校は、早急に取り組んでいただきたい。
(3) 参加型授業づくり集会(5.5.25高知県浦戸小学校)
子供授業研究会の発展型が「授業づくり集会」だ。これは、教師の授業研究会と同じように定例で行う学校が多い。ある学年が授業を行い、全校児童が付箋紙を使い授業を観て授業評価をする会だ。模範授業が目の前で行われるので、子供たちは、自分たちの授業に観たことを活かすことが出来る。だが、これで終わっている学校があるので少し工夫をするとよい。
①授業前に「授業を観る視点」を参加学年ごとに確認をする
4.5年の複式学級の授業を全校児童で観た。その際の参観の視点は、「1年はききかた・はなしかた」、「2・3年は話し合いの仕方」「6年は個人がどのように主体的に学んでいるか」であった。授業後の付箋紙の記述内容が良かったのはこの視点があったからだ。
②授業を参観する中で授業学級の子供と同じように「課題」等の声を出す
授業は観るだけではない。参加できることがあれば、参加をするとよい。この授業では、問題や課題の声だしに授業学年と同じように見ている子が声を出した。これは、異学年交流(イエナプラン)にもつながると思う。
③上学年は、授業中に下学年へ教える
参加者の学年が下学年であれば、上学年の子は「教える」ことも考えられる。観るだけでなく、教える人になれば、授業で分からない子も助かると思う。本授業では、6年生の子が5年生に教えていた。得意そうになり教えていた。授業づくり集会は、観るだけではない。前述した、異学年交流の意味合いもある。また、教えられるだけでなく近くの子に今はこの段階の学習をしていると説明する姿もあった。
④参観者は空いているスペースがあれば、課題解決を行う
中学校の授業の時だ。一つの班の開いているスペースがあった。授業を観ていた小学生数人が何とそのスペースで問題を解き始めた。ホワイトボードに記述し始めたことに中学生は驚いていたが私には当然のことであった。
⑤参加者も授業の中で意見発表をする
観るだけでなく、意見発表も行うとよい。
⑥授業の中の「振り返り」にも参加をする
授業後の振り返りはもちろん、授業の中での振り返りに参加する。
4 ICT活用 (授業備品NO206、250)
越知小学校のICT
(1)チャット機能の活用
「自力解決」や「考察の場面」で、分かりにくいことや困っていることについてチャット機能を活用し意見交流ができるようにした。考えをノートに書いたり、手を挙げて発言したりすることが苦手な児童が、書き込みをしていく。それに対して、別の児童がその児童への支援メッセージを送ったり、参考となる図や資料、自分のノートの写真を送ったりする。チャットの活用がヒントを得る手段となっている。また、児童の発言がチャットに残るため、教員の学習状況の把握もしやすくなった。
別室登校や欠席児童が教室にいなくても授業に参加できるようになった。これをきっかけに、教室に入る回数が増えた児童もいる。欠席児童に、その日の板書を送る児童もいる。児童自身が判断して活用する場面が増えていった。
(2)デジタル教材・デジタルワークシートの活用
デジタル教科書のデータ等を活用して、教員が教材を作成している。今まで、ノートやホワイトボードの上で考えていたことが、タブレットを活用し実際に操作することで、理解につながりやすくなった。また、板書と連動したワークシートを「ロイロノート」上に配信することで、児童にとって、より見通しのある授業となってきた。
1年生でもこのワークシートが板書と連動することで、短い言葉ではあるが、自分の学びを書き込むことができる。ワークシート上の教員のコメントを友達と共有し、それぞれの良さを認め合いながら楽しい授業実践につながっている。
(3)学習ツールの自由な選択
ICTの活用により、児童が自分の学びやすいツールを選択して学習を進めていくことで、児童の思考や表現方法が多様になった。
授業では、本時の課題に対して全体で見通しを行った後、自力解決に入る。そのツールを、ノート、ホワイトボード、デジタル教材、友達に相談等、児童自身が選択して学習していく。これまでの「越知ゼミ」での話し合いは、ノートやホワイトボードが中心であったが、現在は、各自が選択したツールで考えが提示される。各々のホワイトボード、ノート、タブレット等である。そして、その場面がこれまでと違うのは、ノートに書くことが苦手だった児童が、タブレット端末に自分の考えを書いたり、教員が作成したデジタル教材に書き込みをしたりして提示していることだ。バラバラな方法だと、集約が難しいのではないかという意見もあるが、要は学習内容の中身である。児童にとっては、友達の多様な意見に触れる機会が増えた。皆が同じでないと分かりにくいのでは?という考え方を払拭する活動となっている。
(4)学習過程スタンダードの流れをシームレス化
思考ツールが多様化すると、各々その活動時間を保障することが必要になる。児童から学習時間を大枠で進めたいという提案があった。そこで、これまでの学習の流れ(自力解決、学び合い、考察・まとめ・振り返り)を必要に応じて取り入れ、児童自身やグループで学習時間の配分ができるようにした。児童が学習時間の配分を考えることで、自然と時間的余裕が生まれた。書くことが苦手だった児童は一生懸命「ロイロノート」に書き込みをしている。早く終わった児童は友達に教えに行ったり自分のノートを工夫したりし始めた。ノートやホワイトボードをもって、教室をあちこち移動しながら学び合っている姿がある。一人一人の学びに応じた学習場面が生まれ、児童が学びを楽しむようになった。
全国的に子供たち全員にタブレットが配布されてきた。大学生へは早かったが義務教育学校や高等学校は遅れた。
そのためか、使用方法が固まらず休眠状態の学校がある。タブレット端末をはじめとする ICT は、授業を根本から変える要素がある。教師から教わるのではなく、主体的に学んでいく時代に入っていると思う。教科書も全部タブレットに入り学ぶことが予想される。今後どのように展開していくかは予想もつかない。その根底を支えるのは「主体的に学ぶ方法」を指導しているかどうかだ。私たちが行ってきた「学習スタンダードを活用した学び」がそれにあたる。
全国で行われているICTを活用した授業の事例を数回にわたり紹介していく。
高知授業づくり研究会自主研修会(R,4.11.12 高知県越知町越知小中学校)資料を参考にしていただきたい。
1 1年算数 「12-3のけいさん」→1年生が自分たちで写真を撮りロイロノートで共有
「越知小学校」
① 自分の考えを図や式、言葉を使って各自ミニホワイトボードに書く。
② グループになり、大ホワイトボードに各自のミニホワイトボードを貼り、同じところ違うところを見つけたり、質問をし合ったりする。
③ 各グループの大ホワイトボードを写真にとりロイロノートで共有する。その情報をもとに、児童が本時の課題にせまっていく。児童は、共有したロイロノートの違いから、今日のねらいである加減法と減々法2種類の計算の方法に気づいていく。
④ 全体学習から、本時の課題についてまとめていく。
2 6年国語「町の幸福論―コミュニティーデザインを考える」→ タブレット活用でワールドカフェ出張版
①自力解決
・2つのグループのプレゼンテ―ションの動画から、気づいたことや改善点について考えノートに整理する。
・気づいたことや改善したらよいところを短冊付箋に書く。
②グループ学習
・各自のそれぞれの短冊を基に各グループで大ホワイトボードに出し合い、共通点や相違点を基にグループで考察する。→班のWBを写真に撮り、ロイロノートにアップする
③ワールドカフェ出張版→タブレット端末を見せながら全員が説明し合い、意見の交流をする。
④再度、自分のグループに戻り共有した内容を伝え合い「より聞き手に伝わりやすいプレゼンテーションにするための工夫」について考察し、自分たちのプレゼンテ―ションを修正・訂正する。
⑤全体共有→自分たちの修正について全体で共有する。
3 6年算数「データの調べ方」→自力解決、振り返りにチャットを活用
複数のデータを基に大縄跳びの優秀チームを予想する。ロイロノートにこれまでのデータを蓄積、そこから根拠として活用するデータを選び、相手を納得させる説明をし合う。
①自力解決→自由にチャットに書き込むことで分からない言葉などを友達に聞く。
②根拠資料は手元タブレット、それを示し自分の考えはホワイトボードに書く。
③家庭待機や別室登校の児童もそれぞれの場所からチャットに参加している。
ICTの効果的な活用は、これからどんどん進んでくるだろう。個別最適な学びはもちろんであるが、協働的な学びに効果的に取り入れることで、より児童のアウトプットの場面が保障される。そのことは、学びを分かりやすくすることはもちろん、手元で自他の考えを容易に比較できることから、一部の児童と教員だけで進みがちだった学びが、全ての児童が参画できる授業へのアプローチの一つになっていくだろう。
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