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授業づくりは学校づくり
児童とともに学ぶ授業実践研究「セルフ授業大会」
高知市立浦戸小学校 校長 藤田 由紀子
1 学びの土台「うらどベーシック」
本校は児童数46人(令和4年4月現在)複式学級 が2学級(2,3年と4,5年)ある小規模校である。
平成30年度より西留安雄先生にご指導いただきながら、児童の「主体的・対話的で深い学び」を目指した授業方法「うらどベーシック」に取り組んでいる。
今回のテーマ「セルフ授業」は「うらどベーシック」を児童、教員の双方が習得することによって、児童の主体的対話的に学ぶ力(コンピテンシー能力)を引き出すとともに、教員の授業力の向上を目指して取り組んでいる実践研修の1つである。したがって、セルフ授業の前に、「うらどベーシック」の考え方、実践の概要を説明する。
本学習を実践するにあたって本校が確認していることは、次の5点である。
(1)授業プロセス
1時間の授業は【問題→気付き→課題→見通し→ひとり学び→とも学び→考察→まとめ(→練習問題)→ 振り返り)のプロセスをたどる。これを基本に教科領域毎にその特性を生かした工夫をしている。
(2)学習者主体の学び
児童の学習リーダーが中心となって児童主体で学習を進めていく。教員はそのコーディネーター役に徹することができるようになることを目指す。
(3)教員の役割
1時間の時間配分をシラバスとして提示し、それに沿って学習を進める。また、児童が主体的・協働的に学習できるように授業前に板書を準備。板書にある問題やキーワード、既習事項を道しるべに児童が自ら思考し学ぶことができるよう学習環境を整える。
(4)ノート指導
自分の考えを書くことを大切にする。「まとめ」は、キーワードを活用して児童が自分なりのまとめを記 述できるようになることを指導する。学習の中でインプットした考え方や知識をアウトプットすることによって児童自身が理解を深めるためである。
(5)協働できる学習環境を整える
「とも学び」、「考察」といった協働的な場面では、 聴覚だけでなく視覚的にも相互交渉できるよう、ホワイトボードやタブレット等を活用する。本校には、教員の工夫により児童が話し合いに活用するホワイトボードが現在5種類ある。
このように児童が主体的、協働的に学ぶことができるよう様々な工夫をしながら、より良い学びを目指して「うらどベーシック」は常に変化している。重要なのは、これらのことが教員個人の工夫や変化ではなく、全ての教員と児童が作り上げていることである。
2 実践研究は児童とともに
本校では学習の主体者である児童と教員が、授業プロセスや学び方を考え合う場として、月1回の全学級授業公開日を設定している。教員は、授業公開の1週間前に指導案検討会を行う。指導案をもとに、自分の学級の課題に対してどのような工夫でアプローチしていくかをそれぞれが説明し、簡単に意見を交わす。同僚からの意見に納得がいけば指導内容を修正する。
当日の午前は全学級が授業を公開し、全教員が参観する。その間、児童は自分たちだけで学習している。午後からは、1学級の授業を全児童で参観する「子ども授業研」や児童だけで学習を進めるセルフ授業を全ての学年で行う「セルフ授業大会」を実施。どちらの場合も終了後に、児童が授業について話し合う「子ども事後研」を行う。
「子ども事後研」は、企画委員会の児童をリーダーに、自分たちの学びの良いところや課題を話し合う場である(セルフ授業については後述)。放課後は教員の振り返りを行う。簡単に話し合いをした後、A4、1枚程度のレポートを書いて研修は終了する。このような校内研修が毎月1回、年間10回程度実施されている。毎月できる仕組みがある。まず、毎日やっている「うらどベーシック」の授業を公開するのだから、授業自体は何ら日常と変わることがない。指導案は写真板書指導案である。作成した板書を写真にとればほぼ完成である。また、話し合いの時間を短縮するために、指導案は教職員の共有ドライブ内にデータで提出。授業に対する意見は、参観しながらデータ上の板書にダイレクトに書き込んでいく。授業終了後には授業者のもとに参観者の意見が届いており、すぐに確認できる。話し合いは次の課題の確認に焦点化しているため短時間で済ますことができている。
全員授業公開日を設けて5年目となる。本校の授業実践に欠かせない研修となっている。
3 「セルフ授業大会」の実際
西留安雄先生は、「セルフ授業とは、教師の一方通行型授業や一問一答型授業ではなく、子ども同士が交流をする授業(アクティブ・ラーニング)のことだ。その中で教師ぬきの授業をセルフ授業と称している。」と説明している。また、学び方の4段階としてセルフ授業を 4 段階目の学びと位置付けている。
実は本校がセルフ授業に取り組み始めたのは、初期スタンダードに取り組んでいた頃である。なかな 従来の指導者主体の授業から抜け出せない教員に 「子どもは主体的・協働的に学ぶ力を持っている。」ことに気付いてもらいたいと考え、研修として設定。やらざるをえない状況を作り出すことからはじめた。
5年目となる現在、子ども達が自分たちで学ぶ姿が日常でも見られるようになっている。出張等で担任が不在であっても学習が進んでいくことはもはや当たり前になりつつあるが、「セルフ授業大会」は続けている。
「セルフ授業大会」の実際を説明する。担任は、通常の授業同様にキーワードや資料、学習方法を提示した板書を準備して教室を出る。上級生になると課題だけしか知らせないこともある。自分の学級には終了まで顔を出さないことがルールである。かわりに他学年の授業を観察する。同僚が日頃どのような指導をしているか、子ども達がどう課題にせまろうとしているかを学ぶ。授業後の「こども事後研」では、児童が中心となって他学年はどのような学習をしていたのかを板書やノートをみて学び、自分たちの学び方を振り返り、次への課題を考える。他学年からの感想や意見は子ども達の励みになったり、時には発奮材料になったりしている。
「セルフ授業大会」は、始まってしまうと言い訳もごまかしもきかない。その時の子どもの姿、私たちの指導力をありのままに見せてくれる鏡のような存在である。
セルフ授業が時間内に終らないことがある。初期段階では、課題の見通しで時間を取りすぎて考察までたどり着かなかった。それは、子ども達が自ら課題の見通しがもてるところまで、私たちが指導できていないということであった。ではどうすればよいかを考え、実践を繰り返しながら、「うらどベーシック」の見通しのもち方を作っていった。また、上手く子どもたちだけで見通しを持てるようになると、次は考察が十分にできない現実に直面した。個々の意見を大切にしながら、よりよい考え方を見出し、結論付けるとはどういうことなのか指導すべき大人が分かっていなかったことに気付かされた。比較や対比、構造化しながら思考を構築していくことを、子ども達とともに学んだ。
教員にとって「セルフ授業大会」は子ども達の成長や自分の指導を振り返る場となる。また、1年生から6年生までの6年間の学びを一度に観察できることから、学びの連続性を子ども達と共に確認しあうこともできる。子どもとともに、学習の在り方を考えることができる貴重な研修の場となっている。
4 授業が学校をつくる
6年前26名であった児童数は46名まで増えた。 本年度特認校制度等を活用した校区外児童の割合は 70%となった。年々この割合は大きくなっている。6年前の学力調査では、高知市の平均にも届かない学校であったが、市や県、全国の平均を超えることができるようになった。それとともに、生徒指導上のトラブルも減った。児童はそれぞれ課題を抱えているが、協働して乗り越える力も育っている。保護者や地域も学校を信頼し大切に思ってくれている。ひとえに子ども達が充実した学校生活をおくり、力をつけていると思ってくれているからだと考えている。
昨年度3月、6名の児童が卒業した。本校の卒業式では、卒業生は自分の6年間の学びを自分の言葉で語る。その中の一人の言葉を紹介する。
~私は浦戸小学校に転校するまで、別の小学校に通っていました。そこは全校児童が300人を超えていてとても人数の多い学校で、先生中心に授業を進めていました。浦戸小に来て最初は全く違う環境で少し不安 だったけど、児童が授業を進める姿を見て今までの不安も吹き飛び、「すごいな、私もこうなりたいな。」と思いました。 あれから3年たった今、国語や算数では学習リーダーをし、少しでも過去のあこがれに近づくことができたと思います。これからも、この浦戸小学 校で学んだ主体的に行動していくことを続けていきたいです。(以下略)~。
本校は、全国にある普通の公立の小学校である。教育課程は、学習指導要領の示す内容を理解して学習指導を行うように常々指導している。学習指導要領が示す「主体的対話的で深い学び」の実現を追い求めている。そのために、多くの先進校も参考にさせていただいて現在に至っている。 これからも、児童と教職員が学びつづけることができる学校を目指して授業実践に取り組んでいきたいと思う。
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