PDF版(クリックで表示されます。)
AARサイクルとは、OECDの学びのコンパス(羅針盤2030)で提唱されている
Anticipation(見通し)-Action(行動)-Reflection(振り返り)のステージを繰り返す学習プロセスのことだ。現行の学習指導要領の「見通し」「振り返り」の用語もここからきたと思われる。AARは、After Action Review(アフター・アクション・レビュー)の略称で授業検証方法の一つだ。
これまでの授業評価の課題
これまでの授業評価は、教科のねらいに沿うかどうかの評価項目が多かった。学び方に特化した評価項目はほとんどなかった。学習課題設定に多くの時間をとるので内容が不確実性になり、検証しても「曖昧さ」が残った。子どもの解決活動も少なくなる。「考察」や「まとめ」も教師が行う。研究授業後の話し合いも「曖昧」で、だれも傷つかない形で終える。また、研究協議会は、その場では盛り上がるが、「明日へ役立つ話し合い」とはならなかったことが多い。あまりにも、こうした授業研究会が多かった。どうかこの問題に気付いて欲しい。今後はAAR型サイクルの研究協議会が主になることを切に願う。
「AAR」手法が広く使われている
After Action Review (AAR) は、アメリカで開発された。企画段階で時間をかけてきっちり課題解決のための準備をするよりも、小まめに多くの学び方の評価を繰り返すことで成果が上がる。このことに教訓を得て広まった手法である。現在は多くの企業で活用されている。
AARの4ステップ
◆ステップ1(計画)
日々用意しておくことや、段取りや事後研究会での司会の仕方を決めておく。学習リーダーが当たることになる。学習スタンダードや各地のベーシックや問題解決的な学習方法を子ども、特に教師がマスターをしておくとよい。
◆ステップ2(準備)
授業前に学習リーダーと教師との打ち合わせが必要である。授業の手順、板書方法、学習課題、学び合いの方法(7通りのうちどれを使うか)。考察やまとめには教師が手を出さない。そのための方法を日ごろから練習を積み重ねる。AAR法の開催に向けての準備を学習リーダーも行う。
◆ステップ3(開催)
1 教師ではなく子ども主体で授業が進むための具体的な子どもの学び方(学び方の評価項目例)
前述したがこれまでの協議会では、全員が参加していたが結論が曖昧で次の授業につながらなかった。これまでのワークショップ型の単なる成果・課題・改善策の評価方法であったからだろう。これを変える。AAR法では、大きな学習の評価ではなく、あらかじめ決めていた2~3項目の学び方の方法で話し合う。校内で10項目くらい用意し、そのうちの2~3項目をグループで話し合うとよい。
① 学習課題設定に時間をかけ過ぎなかったか
② 自力解決時に分からない仲間をそのままにしない別な方法をとっていたか
③ ホワイトボード書きには全員参加していたか
④ 学び合いの方法を各班で工夫していたか
⑤ 考察「つまり~」は、教師ではなく子どもだけで最後まで行うことができたか。
⑥ 教師が板書をできるだけせず、子どもたちが行っていたか。
⑦ 教師は45分中、10分以内で話をとどめたか
⑧ 子どもはアクティブに動いたか
⑨ 学習リーダーが活躍する授業(教師が進行を任せる)であったか
⑩ セルフ授業が出来る(指導できる教師)ようになったか。
2 子どもも教師も同じ評価項目で話し合う
授業(学習)が終わったら、メンバーが状況を忘れないうちに開催する。短時間でいいのですぐに行う。そこは、ファシリテーターの出番だ。段取りは次の順序で進める。
① そもそも我々は何をしようとしていたのか?(メンバーで目標や目的を改めて再確認)
② 実際に何が起きたのか?(客観的な事実を出来るだけ多く・データを洗いだす(憶測なし)
③ なぜそうなったのか?(なぜこの結果になったのか、原因はどこにあったのか)
④ 次に行うならば、どのように改善するか?
再び同じ状況になった際は、どのように対処するかを検討する。AARの意義の一つは、同じ失敗を繰り返さないことである。事実と仮説をもとに、何を改善すべきかを考え対応策を練る。
◆ステップ4(フォローアップ)
ファシリテーターが報告書にまとめ、保存して学校として活用。
上の図のように、「事実」と「(それに対する)気づき」を分けることが重要だ。当初の想定について「目的」だけでなく「こうすれば、ああなるだろう」という「目的から手段」の当初の/仮説を確認できるとよい。
小さな改善を次に生かす
授業研究の企画や指導案作成に完璧な構築を目指す日本では、計画段階で関係者に根回しをしながらじっくり時間をかける。だが、実行して問題が多く出た後、「最初に言ったことと違うじゃないか」と思っているが、あえて言葉にしない。それは、検証・対策がキッチリとできず、結果的に授業のPDCA (Plan, Do, Check, Action)が回らない。
アメリカ発のこのAAR法はあっさりしている。すぐに実行した後、検証や対策を行って、再度計画を見直すことが多い。この仕組みが回っているので、結果的に小さな成果も速く出る。学び方もどんどん蓄積されていく。ポイントは組織で学校に学び方を蓄積する手段であり、個々の教師の採点の道具にはしないことだ。実際の研究授業でAAR法を実践し成果を上げるためには、参加者が習熟しその意義を理解しているかどうかだ。
学習指導案や、教科指導についての評価は、思考・判断・表現等、知識技能等、学びに向かう力等で行われる。長年、私たちは、それをワークショップ評価で行ってきた。だが、本当に良い授業には行き着かなかった。その原因は、評価方法にあったと思う。研究会での授業評価は、「次につなぐ」というが形だけだった。そこで、今後は評価3観点項目と平行して、新たなAAR法の「学び方」の評価方法を取り入れていくとよい。課題が浮き彫りにされるので授業改革は進むと確信する。 |
参考文献
① プロジェクトマネジメント・組織づくりのコパイロット
② 創業手帳
③ コアネット教育総合研究所、文部科学省初等中等教育課程局教育課程企画室
「OECD2030プロジェクト」
④ AFTER-ACTION REVIEW TECHNICAL GUIDANCE米国国際開発庁
Comentários